TPPとは?参加国と医療農業に影響するメリット・デメリットは?
TPPは環太平洋地域における経済連携協定のことで、
正式名称はTrans-Pacific Partnershipと言います。
2013年3月安倍首相が正式に交渉参加を表明しました。
現在日本を含め米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・
シンガポール・マレーシア・等々
12か国が加わって交渉を取り進めている最中です。
- 経緯
2006年シンガポール・ニュージーランド・ブルネイ・チリの
4か国間でスタートした経済連携協定に
2009年米国が参加したことで状況が一変しました。
その後相次いでオーストラリア・ペルー・ベトナムが参加し、
TPPと改称し2010年にはマレーシアが加わり、
9か国に拡大し注目を集めるようになりました。
しかしここに来て、関税障壁の撤廃で激しい議論をしており、
最終合意に至るか全く予断を許さない状況になっています。
特に知的財産保護のルール分野の
“新薬開発保護期間設定”で日本・米国と他の諸国との間で
激しい対立が起こっています。
韓国・タイ・台湾・フィリピン・中国は未加入で、
TPP交渉経緯を見守っているのが現状です。
- TPPの本質
現在日・米・他太平洋周辺国12か国で交渉中ですが、
GDPの規模で見るとアメリカ67%・日本24%と
2か国で90%強を占めるのです。
また内需(輸入能力)だけで見ても大きな国は
アメリカ73%・日本23%と2か国で90%強なのです。
即ち環太平洋諸国といっても実質は
日米2国が主体の貿易といっても良いでしょう。
アメリカの真の狙いは日本に関税を撤廃させて、
農産物の輸出を目論んでいるといっても良いでしょう。
確かに日本からの高度な工業製品の輸出は、
日本にとって関税が撤廃されれば、輸出し易くなるのですが、
もう一つの壁が「為替」なのです。
米国に輸出するには為替が
「円安・ドル高」であることが理想ですが、
米国が「円高・ドル安」にもっていけば、
いくら関税障壁がなくなっても何のメリットもありません。
2009年以降1ドルが100円を切る極端な円高になり、
日本の製造業が活路を求め海外に工場を建設しました。
海外に工場を建設した結果、日本での雇用が奪われてしまいました。
最近の円安でようやく日本の製造業に活気が出てくる兆しがありますが、
まだ予断は許しません。
アメリカに日本企業が進出する分には、
アメリカの雇用が維持されるので、アメリカにとって問題になりません。
- TPPのメリットは?
米や酪農分野の畜産品・乳製品、砂糖などの輸入品に、
高い関税を掛けて農家を保護していますが、
これがなくなると消費者は安く購入できます。
また自動車部品など工業製品は輸出し易くなります。
域内の国々には投資し易い環境が改善でき、日本にとってはメリットです。
- TPPのデメリットは?
1)農産品:
米や酪農分野の畜産品・乳製品、砂糖などの
輸入品に高い関税を掛けて農家を保護していますが、
この関税が撤廃もしくは下げられると、
営農できなくなる農家が出て来ます(*)。
これらの農産品が関税撤廃されると、
食料自給率がさらに下がります。
(*):政府は上記農産品について、
例外品目に設定し交渉に望んでいますが、予断を許しません。
特にコメ農家は小さな耕作面積の田や山間地の棚田などでは
採算取れず耕作放棄されるでしょう。
田んぼは単なる稲作だけでなく
大雨時のダム機能、地下水のかん養、天然のクーラー、
水生動物生育の場の提供、
水の浄化等日本人が長年作り揚げてきた稲作文化がなくなってしまいます。
畜産関係も北海道の酪農・各地の養豚農家も
壊滅的打撃を受けます。
“松坂牛”などブランド牛は普段庶民の口に入りませんから、
庶民は海外の安い牛肉・豚肉を食べることになります。
また食品添加物・遺伝子組み換え食品・残留農薬などの
規制が緩和されるので、食の安全が脅かされる恐れがあります。
2)医療関係:
医療保険の自由化と混合診療(**)解禁で、
国民健康保険制度が圧迫され、医療格差は広がると懸念されています。
(**):国民が平等な医療を受ける為、
保険の範囲外の診療に関する費用の徴収を厚生労働省は禁止しています。
もし患者から保険適用外の費用を徴収する時は、
初診から自由診療として全額患者負担となります。
例外は差額ベッド・高度先進医療のみです。
3)製造業他:
汎用品を作っている製造業は海外からの輸入製品に押され、
立ち行かなくなるでしょう。
また企業買収もしやすくなり、
中堅の技術力のある企業は海外企業に買収され易くなります。
- TPPの損得計算
TPPに参加した場合の経済試算を政府は
内閣府・農水省・経済産業省独自に行っていますが、
省庁間の縦割り制度の弊害なのか、
残念なことに各部署が試算した結果がバラバラなのです。
参考までに示しますと
(引用:農政トピック “TPPの影響に関する各種試算の再検討”P1 表1)、
内閣府:GDPが2.4~3.2兆円増えます
農水省:他国からの安い農産物が大量に輸入されるため、
日本の農家の多くが廃業し、
農業関連のGDPが4.1兆円も減少、
GDP全体としては7.9兆円もの損失になります。
また水田などが荒れ地になり、
環境面でも3.7兆円の損失で、
合せて日本がこうむる損失は11.6兆円になります。 さらにそれだけには留まらず、340万人の雇用が失われ、
食糧自給率も現在の40%から14%にまで下がると予想しています。
経済産業省:日本がTPPに参加しないと、
アメリカやEUと独自に自由貿易協定を結んだ韓国が躍進し、
結果として日本のGDPは2020年までに10.5兆円も減少すると予想しています。
この減少は自動車・機械産業・電気電子の主要な3業種による部分が大きいといいます。
これでは国民はどれを信じて良いか分からなくなります。
- まとめ
TPPに関して安倍首相は交渉に前向きに進めて来ました。
初期の段階で交渉に加わったことで、
ルール作りに参画したことはメリットがありました。
ただ関税障壁を将来にわたって撤廃するのが交渉の目的だとすると、
日本の農業への影響、
ひいては環境へ与える影響があまりにも大きすぎる気がします。
地球人口が爆発的に増えている現在、
食糧安全保障の観点から交渉妥結には十分な国民的議論が必要でしょう。
その為には政府が統一した利害得失の客観的データを国民に示し、
国民的議論をすることでしょう。
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